divadlo

2016年02月

無力感

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なんだかまた忘れられない時間を過ごしたので、忘備の為記録。
日曜の夜想くんが2回目の熱性けいれんで救急搬送、入院して、諸々あって一日で出ることになった。無力感でいっぱいの、深夜。

日曜朝から発熱。熱の上がり方が早かったのと、39度超えていたので救急に連れて行ったけど、熱が出てすぐはインフルの反応が出ないので検査しない。が、インフルの可能性大とのこと。熱冷ましを積極的に使うよう勧められる。その時はけいれん止めのことについては特にこちらも聞かなかった。結構食欲があったり、元気もあるように見えていたのと、なにより2回目があるとは思っていなかった油断。保育園に通い始めて9ヶ月目の先月1月は、一度も体調を崩すことなく、大雪で一日だけお休みした意外、週6日も保育園に通っていたので、ずいぶん強くなったと誇らしく思っていた。熱性けいれんは1回しか起こさない人が65%、とか7割、という統計を見たりしていたので、まあ大丈夫だよ、くらいに思っていた。
夜になってちょっとだるそうにしたり、なんだかまばたきがやたら多いと気付く。圭くんが膝の上に載せている時に一瞬脚がつっぱるような動きを見せたりして少し不安になる。その時にけいれん止めを入れるべきか、否かでしばらく話すが、結局迷って入れず。万が一けいれんした場合も救急車呼んで良いものかどうかについてしばらく話をする。7時半頃に寝かしつける時も結構機嫌良くお話しして、私のマスクを取ったりして布団の中で遊んでいた。「ちょっとおなか痛い」とかなんとか言ったその時、突如目がぱっと開いたと思ったら、思い出したくもないあの目つきに一瞬で変わった。前回よりは落ち着いて、時間を計ったり、様子を口に出して確認したりしたけど、やっぱりもう本当に心から、二度と見たくないあの姿。胸が潰れる。
やっぱり怖くて救急車を呼んでしまった。けいれん時間は3分。おわりがけに左右非対称の動きを見せたので不安。救急隊もすぐに来てくれて前回と同じ救急病院へ。
診断は案の定のインフルエンザ。2回目のけいれんということもあり、左右非対称の件もあるので、入院することに。
諸々手続きや点滴を経て病棟へ移動。その途中で看護師さんが
「ご案内する部屋はインフルエンザのお部屋なんですが・・・同室のお子さんが付き添いがいなくて・・・ちょっと泣くんですよ。。。申し訳ないです。」
小児科に入院すると付き添いがいない子がたまにいることは前回の入院で知っていたけど、まあつきそいが居ても泣く子は泣くし、想くんだって泣くこともあるのでお互い様、ぐらいに思っていた。
病室に入って、ぎょっとした。
すっ裸で、幼児用のベッドの柵にしがみついて叫んでいる女の子。
「ごめんなさいね、脱いじゃうんですよ。はい、◯◯ちゃん、パンツはいて!」
2歳にならないくらいだろうか。想くんより体は大きいけど、言葉ははっきりしない。胸に大きな手術痕のある、女の子。ベッドの周りには脱ぎ散らかしたオムツがいくつか、シーツやベッドパッド、枕、布団、おもちゃ・・・。マットレスの上はおもらしの跡がたくさん。よほど病院とはかけ離れた状況にしばらく頭が付いて行かず。想くんの点滴ガラガラを押しながら「いや、これ普通の状況じゃないよな。」と何度も思いつつもとりあえず想くんをベッドに寝かしたり、諸々整えたり。その間も延々叫ぶ女の子。看護師さんもしばらくは女の子の相手をしていたけど、そのうちさじを投げるかのように出て行った。その背中に向かって叫ぶ女の子。
タイミングよく想くんが眠ってくれたので、ちょっと落ち着いたら声をかけてみた。
「どうしたの?寒いよ?」
私の言ってることはわからないけど、ちゃんとコミュニケーションは取れそうな目をしていたので、
「とりあえずパンツはこうか」とオムツをはかせ、「よし、ねんねできる?ごろんできる?ごろーん!」と声かけると意外とあっさりごろんとしてくれた。よそのお子さんなので柵を下ろしてまで世話するのも責任問題になってくると困るので柵越しにとんとんしたり、布団をかけたり。するとものすごい力で私の髪をひっつかみ、にぎり締めて、眠り始めた。ちょ、ちょ、髪は痛いのでこちらでお願いしますよ、と手を握らせてあげると最初は納得しなかったものの、握れればなんでもいいやとばかりに両手で私の腕を捻り上げるくらいの力で眠り始めた。ねんね・・・ねんねよ・・・ととんとんしているうちに、寝た。
・・・いやあ、この状況はおかしいよなあ。。。
と心底思いつつ、とりあえず寝付いてくれたのでそーっと離れて想くんの元へ。
と思ったらぎゃー!と叫び出す。その声で想くんも目が覚める。なんとか叫び声の中、想くんを寝かしつけて女の子の元へ行くと、また素っ裸でおしっこしている。またオムツをはかせ、服を着せて、布団をかけて、とんとんして・・・一晩で5回くらいはそれを繰り返した。途中、看護師さんが来て私が世話しているのを見て、「はっ!申し訳ありませんーーー!!」という流れになったのが2回。私が想くんで手が放せなくてナースコールで呼んだのが2回。でも、女の子がどんなに叫んでいても、看護師さんたちはそうしょっちゅう来てはくれなかった。
「ちょっと泣くんですよ」ではない。女の子が叫ぶのにはちゃんと理由がはっきりあった。一番言いたいのは「ママに抱っこして欲しい、添い寝してほしい」。でもママが居ないのもわかっているから「誰でも良いから側にいてほしい」。だから世話を焼いてもらう為に、人を呼ぶ為に、服を脱ぐ。おしっこをする。叫ぶ。
言葉は悪いけど、虐待現場に立ち会ってしまった気分だった。
付き添いができない親御さんもたくさんいるし、いろんな事情があるのはよくわかる。女の子の胸の大きな手術痕。肺か心臓かが悪そうな咳。どうしても夜に抜けられない事情があるかもしれないのは想像できる。
そして、付き添いの居ない子どもにべったり貼り付くわけにも行かない病院の事情もわかる。
でも、今のこの女の子の状態は、異常だ。服を脱ぐことでかまってもらおうとするその精神状態は、普通じゃない。
この子に手を差しのべてあげられるのは、今のこの空間では私しかいない。でも私も熱が40度近い子どもの面倒を見なきゃいけない。何度も女の子が叫んでいるのに放置して想くんの面倒を見た。その度にとても悪いことをしている気がして胸が痛んだ。自分の子を放っておくことができなかった。でもその度見せる、女の子の泥のような目。きつい、きついぞ、この状況。
明け方、想くんがうなされるように「かあたん、とんとんして。とんとんして。(眠らせて)」とつぶやいてるのを聞いて、申し訳ないけど、本当に申し訳ないけど、私はここにいるべきではないぞ、と。自分の子どもの回復の為に、安らかな休息の為に動かなければ、と。ちょうどそのあとすぐ、朝5時に、けいれん止めの最後の処置の為に来た看護師さんに、部屋を変えるか、退院させるかしてほしいので先生に相談してもらうようにお願いした。とりあえず2回目の坐薬を入れればけいれんの処置は終わることは前回の入院で知っていたので、インフルの治療なら家でもできるし、脳波は外来で後日来ることも可能だろうと思ってのお願いだった。翌日の午後からは女の子に付き添いが来るのでもう少し様子を見てもらえませんかと言われたが、とりあえず先生に相談してもらうようにお願いした。
翌朝、回診に来た先生にも直談判した。看護師さんからはやっぱり話は通っていなくて、きょとんとしていた。先生は昨日けいれんしたばかりなのでもう一日様子を診させて欲しいと言った。別の部屋は用意してもらえますかと聞くと、部屋に空きはありません、と。申し訳ないけど、無理です。回復の妨げになっています。出させてください。と言うと、一瞬ムッとしていたけど、女の子の状況は先生も知っていたのと、朝食を食べたら想くんも熱が落ち着いてきて状態が良くなっていたので、結局許可されて、昼ご飯前には退院した。
退院しても、あの子を見捨てたようで、ずっと胸が苦しい。最後に状態を改善してもらうように病院側に意見したくて今にも口から出そうだったのに、今後も精密検査や救急でもお世話になる病院で、心象を悪くするのが怖くて飲み込んだ。自分の子どもかわいさに何もできなかったことをものすごく後悔している。なにがこどもの為の演劇だ、とまで思ってしまう。偽善だ。

無力だな、と。どうするのが正しかったのか、わからない。

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